がりつうしん

那須野ヶ原を中心とした話題と与太話、ほぼ余談。

本県遊廓増設問題(2)(明治32年)

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本県遊廓増設問題(2)  下野新聞 M32.10.14

減租廃娼主義者大懇親会 は郡会議員当選の祝いを兼ね、本日八日午後一時より、安蘇郡新合村閑馬高林寺に開けり。朝来の晴天加うるに日曜なりしをもって、会員三百二十余名の多きに達し、定刻には場の内外に充満せり。やがて発起総代桑子光吉氏起て開会の趣旨を述べ次て尾花九平氏登壇郡会議員当選の祝意を述べ、過日県議会議員選挙に賤業者藤沼某を選挙せる者多きは、痛く本村の体面を汚し、実に遺憾千万なり。以後は必ず斯る人物を選むからずとて慷慨なる一場の演説をなし次に栗原彦三郎起て廃娼の必要なる理由十五ヶ条を掲げ、道徳国家社会の三方面を立論し、大いに県令第六十号を非難し速かに取消さしめさるからずとて縷々(ろうろう)二時余の長演説をなし終わるや来賓総代栗原助三郎氏起て謝辞を述べ旁々(かたがた)選挙に関し警告する所あり。次に新郡会議員遠藤彦四郎氏答辞を述べ、これより宴会に移り献酬たけなわなる頃、栗原彦三郎氏は、左の決議案を朗読し、一人の異議を唱うるものなく満場一致をもってこれを可決せり

決議案

一、政治上の問題についてはすべて行動を共にすると

一、あくまで減租の主義を採り並に十四議会に向て減租の請願をなすと

一、県令第六十号の取消を請願し、並檄を発して県下の志気を鼓舞しおおいに県令取消の運動をなしおいて公娼の全廃を計ること

一、溝部惟幾氏は痛く本県の体面を汚し、県民を侮蔑せるをもっておおいに排斥し、並に来たる県会に於いて県知事信任問題を提出せしむると

一、すべての議員は必ずこれを減租派候補者中より推選すると

右の実行を期するため実行委員五名を選挙し、桑子光吉、栗原彦三郎、木村保吉、矢島豊吉、遠藤彦四郎の諸氏当選し、談笑のの間に宴をおわり、午後七時半頃散会せしが、同地未曽有の盛会なりしという。

尚志会の取消建議 田沼町尚志会員の県令取消運動については、前号記載のごとくなるが、同会員が町会議長に宛差出せる建議書は左のごとし。
本年九月県令第六十号をもって本県溝部知事は遊廓の増設をなしたり。本町新たにその数に入る。何の必要があって増設せられたるか、生等(せいら、我々)のはなはだ解するにあたわざる所なり。生等はつとに公娼を廃せられんとを熱望するものなれども、いまだ時運の至らざるをもってこれを忍ぶも公娼の許しある実に慨嘆に堪えざるなり。生等他郡の地誌町村の状況盛否を知らざれば、切にこれを論議するとあたわざれどもおそらくは遊廓の増設を歓迎するものあらざるべし。よくも遊廓の社会に有毒を流すも盆なきは、今さら生等の喋々を要せずして明なり。思うに遊廓を増設せられたる要旨は、淫売を防ぎ、徴毒の弥漫健身(びまんけんしん)を保護するにありとするか、決面然らざるべし遊廓付近の地は一層風俗を乱し、産を傾け、家を失う腐腸の徒多しと聞く。かいして本県には酌婦なるものあり、二等芸妓なるものありて、至る所の微々たる酒楼と言えども、ニ三娼妓然たるものありて、風俗壊乱の聞こえ少なからざりしが、飲食店取締規則を励行せられてして、風俗の矯正を計り一方に遊廓を増設して、悪風を増長せしめんとするは、あたかも身投げを救いて海中に突き入るる擧と言わざるを得ず。豈前後の矛盾もはなはだしいとせんや想うに、本郡北辺の人民は、一層純朴にして家を守り、郡を愛し国を護り、殖産興業の発達を謀りつつあるにあらずやしかるに本町に遊廓を新設せらるるは、風俗壊乱の主因を作り、前途嘱望の少年子弟をして不良の徒に入らしめ、産を失い国家に盡忠(じんちゅう)せざるからざる幾多青年をして、徒に浮浪の輩たらしむるの憂すくなからず己に当地に遊廓指定せらるると言えども、いまだ家産を建設するの難しきを信ずゆえにこれを建設せざるに先だち、県令第六十号中より田沼町設置取消を県知事に建議せんとするも、不肖青年輩の建言は理あるも是認せられざるの嫌なしとせず、幸なるかな本日町会の開会ありと聞く賢明なる議員諸君生等の微衰(びすい)を採り、不文を咎めず、県知事にこれが取消を上申せられんとを焦眉(しょうび)の急あえて乞う。 頓首敬白

栃木県青年尚志会六十四名惣代十一名

 

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