がりつうしん

那須野ヶ原を中心とした話題と与太話、ほぼ余談。

老松温泉喜楽旅館@那須湯本

教傳道標から東(とう)公園跡を通って、つづら折を降りると、そこは白河米付け道の終着点、那須湯本だ。湯川を渡る「おさん橋」の手前に「老松温泉喜楽旅館」がある。ネット上では那須湯本の鄙(ひな)び系温泉としてつとに有名。

開業はネット上の情報では60~70年前とある。しかし、大正9年(1920)「那須温泉遊覧全図」、大正13年(1924)「那須温泉案内」に「喜楽湯」の記載があるので、温泉自体は90年以上の歴史があると思われる。

※ネット上で見られるのは日文研のデータベース、大正11年(1922)「那須温泉名所圖繪」に「氣樂湯」の記載あり、誤字か?

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旭橋たもとからの道、駐車場手前にある倉庫

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老松温泉の効能と利用法が倉庫のガレージに書かれている。

保養とは
新陳代謝を亢進し 解毒機能を旺盛にし、老廃物の排泄を促するのみか、自律神経の緊張や内分泌を整調して諸内臓機能を旺盛にし早期の老衰を防ぐ。
保養で体力を作って置けば毎日の働が苦にならず、無理せぬ為め、何時迄も若々しく美しく永生する。万一非常時に天変時変に人助けるとも避難も良。

休養とは
身心の疲労、病后、手術后、其他健康の上に猶(なお)強壮を希望する人々の、より一増の躰力充実とイネルギー蓄積とも言ふ。
強アルカリ泉の單純泉と良い薬分が多い為め快復が早く広範囲の病が癒(なお)る。

療養とは
病人が對像で有って、発病后に於ける利用で有る。湯治を云ふ。
病人は血液不足か汚れているか、内臓の働が弱く、血液中の老廃物の排泄作用が悪い為と血液中の細菌が原因で有る。これが殺菌復活作用に適する。
老松温泉をご利用下さい。


略字と医学的に多少不正確な内容からして、昭和40~50年代に書かれたものだろうか。高度成長期のレジャーブームに沸く那須湯本温泉に奮闘する老舗、喜楽旅館の様子が目に浮かぶようだ。

立ち寄り温泉みしゅらんによると
喜楽の湯(老松温泉)   単純S温泉(Ca・Mg-SO4・HCO3型) 30.0℃ pH=6.1 TSM=0.65 TS=29.5
と中性~弱酸性、鹿の湯はpH=2.5とのこと。

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おさん橋側から



大きな地図で見る
那須いこいの家(旧東公園)から湯川おさん橋

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喜楽旅館の看板ともいうべき、建物西側の壁の崩壊した部屋。一体なにがあったのだろう?

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湯川沿いの様子、男湯窓から。増改築の跡のあるコンクリの素っ気ない外観は古いアパートのようだ。

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北側建物が喜楽旅館、向かいが経営者の住居及び管理棟になっている。

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管理棟で入湯料を支払い旅館内へ。ガラス戸を開けると螺旋状の階段が。ところどころふやけて剥がれかけた壁や天井にビビりながら浴場に向かう。

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温泉には先客が一人、入れ違いに出て行かれた。総木造りの暗めの浴場は風情がある。こもりがなく気分が良い。さっそく気兼ねなく撮影をば。

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浴槽が縦にふたつ、以前は奥の浴槽が熱め、手前がぬるめだったらしいが、震災以降は手前しかお湯を張っていないとのこと。二つのパイプの片方からは加熱したお湯が、もう片方からは源泉のまま(30.0℃)のお湯が出るという。温泉成分を薄めず温度調節ができると。この時は熱い方が出なかった。

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この日はややぬるめながら、ゆっくりと浸かるには最適な温度。硫黄泉だが鹿の湯とは明らかに違う。湯川沿いから噴出しているのかと思いきや、管理棟地下に源泉があり、湯川左岸の崖から湧き出しているらしい。

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喜楽の湯は、那須湯本の刺激の強い硫黄泉で湯ただれした肌を癒す「仕上げの湯」として利用されたという。何度も閉館を考えたが、熱心な愛好者の支えでここまで頑張ってきたのだそうだ。

老松温泉 喜楽旅館
栃木県那須郡那須町大字湯本181

[参考ブログ(名文です)]
日本ボロ宿紀行
廃墟のようなホラー系温泉宿に隠された絶品のお湯 [老松温泉 喜楽旅館]

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