那須岳はかつて山岳信仰の山で、茶臼岳南西部の山中に湧出する温泉「御宝前(ごほうぜん)の湯」をご神体とする数箇所の拝所を備えた霊場があり、湯本口側は高湯山、三斗小屋口側は白湯山と呼ばれていた。
同じ霊場に二つの名称があった実際の理由はわからないが、要は霊場を巡る利権を表口と裏口の二つの窓口で別々に管理していたということか。嵐除け・豊穣祈願のほかさまざまな御利益があるとされ、明治以降は特に成人の儀式として各地から参拝が行われていた。
黒羽藩の「創垂可継」より那須高湯山大権現についての記述から。
拝処
弥陀ヶ原 ○月山八竜 ○薬師岳 ○月山ないき
天狗岩屋 ○男釜 ○女釜 ○五智如来
毘沙門ヶ岳
如来岳 ○胎内くぐり ○役行者 ○毘沙門
三面大黒 ○朝日岳 ○姥月光 ○梵天谷
大権現宝前 ○三宝荒神
御沢
八万四千仏 ○胎内くぐり弁財天 ○天照大神長命水
両部の滝 ○庚申 ○補陀落三社
御観仏 ○御供蔵
荒沢不動
以上弐拾八ヶ所
茶臼岳卯辰向 毘沙門岳 南向
奥院宝前 卯辰向 御沢流辰巳向
高湯山の拝所名の部分。ここでの月山とは茶臼岳、毘沙門ヶ岳とは朝日岳のこと。毘沙門ヶ岳と御沢は拝所名?これを含めば29箇所だし、省けば27箇所なんだけど。
無間地獄
また田代音吉著「三斗小屋誌」(M44)掲載の三斗小屋表口白湯山の記述では、御沢より白湯山(御宝前)までに12箇所、月山(茶臼岳)に12箇所、朝日岳に12箇所の計36箇所の拝所があり、これを辿り拝することを「三山掛け」と称す、とある。また他所(湯本口高湯山)より上がる者は御沢掛12箇所の拝所を拝めない、とあるが、湯本口からだと御宝前を参拝して朝日岳に向かうため戻るので、シズノ平、御沢姥像ほか御沢沿い行人道の拝所は巡らない、ということだろう。だったら三斗小屋表口側からは湯本温泉神社から茶臼岳の間の拝所は巡らないだろが?白湯山側の拝所リストは今のところ文献でも見たことがない。鴫内成沢に「黒滝山大日尊」というのがあって、ここの黒滝神社二十四拝所は白湯山霊場と関係が深く、白湯山を真似たものであるとされている。黒滝山霊場の拝所名はすべて分かっているが、これは白湯山の拝所名を真似ている可能性もある。
参詣路入口
湯本口高湯山行人道の道筋をおさらいしておこう。
湯本温泉神社の本殿脇の参詣路入口から入山し、高雄温泉、平石、与五右衛門(ヨシヤジ)、石地蔵、不動岩(一の木戸)、弥陀ヶ原を通って茶臼岳山頂へ(八間岩の御室 男釜・女釜)。オハチ廻りのあと無間地獄を通り姥ヶ平に降りる。
拝所と参詣路 「高湯山信仰」廣本祥己:著より
姥ヶ平(奪衣婆像)